会員校の特色ある取り組み

日本赤十字九州国際看護大学

大学生の力によるまちの課題解決プロジェクト 地島における防災・減災活動 報告

大学生の力によるまちの課題解決プロジェクト 地島における防災・減災活動 報告

はじめに
 日本赤十字九州国際看護大学は、学校法人日本赤十字学園が全国に設置する大学のひとつで、九州地区の看護教育の拠点として、2001 年に福岡県宗像市に開学しました。地域社会との連携を重視し、看護教育を通じて地域貢献を積極的に推進しており、その一環として、宗像市と協働で地域の課題解決に取り組む活動にも力を入れています。
 大学生の力によるまちの課題解決プロジェクト(以下、まちプロ)は、大学生の柔軟な発想や大学の研究成果を地域の課題解決及び魅力向上につなげることを目的に、本学の所在地である宗像市が令和3 年度から取組みを開始した協働事業です。本稿では、この活動の概要ついて紹介します。
 学生が本活動の拠点としている地島(じのしま)は、福岡県宗像市鐘崎の北西海上2.0 km に位置する、面積1.57 k㎡の離島です。ワカメ、ウニ、アワビなどの磯漁業や釣り漁業が盛んで、春には約6,000 本の藪椿が美しく咲き誇ります。島内には泊地区と豊岡地区の2 つの集落があり、神湊港渡船ターミナルから泊港まで約15 分、白浜港まで約25 分でアクセスできます。令和4 年7 月時点での人口は137 人で、高齢化率は48.9% となっています。地理的な特性から、災害時に孤立するリスクが高く、加えて高齢化が進んでいることから、地域住民が主体的に防災・減災に取り組む必要性が一層高まっています。このような背景から、日本赤十字九州国際看護大学は、これまで培ってきた知識や経験を活かし地域住民の自助力を高めるため、学生による防災・減災活動を開始しました。

1.4 年間の活動紹介

2.4 年間の活動を振り返って
 4 年間の活動を通して、学生たちは地域住民の防災意識向上に貢献するとともに、自らも大きく成長しました。コロナ禍での活動制限や離島という地理的条件、スケジュール調整の難しさなど多くの課題に直面しましたが、メンバーシップやリーダーシップを発揮し、一つひとつ乗り越えてきました。現在では20 名を超える学生が所属するプロジェクトとなり、その活動は地域にも認められるようになりました(ふくおか地域づくり活動賞)。
 活動を通して得られた最も大きな成果は、学生たちが地域住民と信頼関係を築き、コミュニケーション能力やプレゼンテーションスキルを向上させたことです。当初は電話での問い合わせにも緊張していた学生たちが、徐々に自分の言葉で話せるようになりました。また、地域に根ざした視点を養い、病院実習の際には患者さんの生活環境を理解することの重要性を実感するなど、看護師として地域包括ケアを担うための基盤を築きました。特に、上級生が下級生を指導する体制は、下級生にとって良い学びの機会となり、上級生の成長にも繋がっています。この活動を通しての学びは、大分県立看護科学大学の「看護学生による高齢者への予防的家庭訪問実習」1)と同様の成果が得られており、継続的な訪問や地域との連携、世代を超えた交流が重要であることを示唆しています。
 これまで実施してきた体験型の防災・減災教室は、参加した島民に楽しみながら学んでもらうことができ、防災訓練への参加や情報発信を通じて、地域全体の防災意識を高めることができました。例えば、ある学生は、教室で島民の方から「自分たちのために真剣に考えてくれて嬉しい」という言葉をかけられ、活動の意義を改めて実感したと語っています。避難所となる小学校への防災グッズ贈呈や展示コーナー設置も、地域住民の防災への関心を高めるきっかけになったのかもしれません。
 これらの活動を通して得られた経験は、学生たちの成長や地域への貢献のみならず、大学にとっても貴重な財産となっています。地島での活動をきっかけに、予防活動に関心を抱き、保健師課程を志望する学生や、卒業研究のテーマとして地域防災を選ぶ学生も現れました。中には、この活動に魅力を感じて入学を決めた学生もおり、活動の輪はさらに広がっています。
 もちろん、活動は常に順風満帆だったわけではありません。活動を実施するにあたり、参加者の年齢層が幅広く、言葉の伝え方に工夫が必要なことや、運営面での課題もありました。これらの課題を克服し、より質の高い活動を目指すために、今後も改善を重ねていきたいと考えます。

3.今後の展望
 今後は、4 年間で培った経験を活かし、地島の方々に寄り添った活動をさらに発展させていきたいと考えています。具体的には、以下の3 つの方向性で活動を展開していきます。
 第一に、これまでの活動を継続しつつ、地島の方々のニーズに合わせた新たな防災・減災プログラムの開発を目指します。例えば、備えが進んでいない現状を踏まえ、災害時に必ず必要となるトイレ問題に着目し、携帯トイレの準備や使用方法、
衛生管理などについて学ぶワークショップなどを実施することを検討しています。トイレの設置場所については、引き続き島民の皆さんと共に検討していきたいと考えています。
 第二に、教室を開催していない時期においても、島民が自主的に災害について考えることができるように支援していきます。例えば、災害発生時の連絡方法や、小学校教職員不在時の避難所設営及び運営について、島民の皆さんと共に検討
していくことを考えています。
 第三に、学生たちが地域で主体的に活動できる機会を増やし、リーダーシップや問題解決能力を育成します。また、国際シンポジウムやJICA 研修生への講義など、引き続きグローバルな舞台での発表機会を設けることで、学生の視野を広げ、地域を越えた学びへと繋げていきます。これらの活動は、学生たちの視野を広げるだけでなく、地島での活動を海外に発信する機会にもなり、日本における地域防災の取り組みを広める上で重要な役割を果たすと期待できます。
 これらの活動を通して、地島における防災・減災の輪をさらに広げ、安全・安心な地域づくりに貢献できるよう、学生・教職員一丸となって取り組んでいきたいと考えています。

1)  看護学生による高齢者への予防的家庭訪問実習:保健師ジャーナル第
75 巻第3 号、P238-244,影山隆之、緒方文子、篠原彩、村嶋幸代