東邦大学 看護学部看護学科
Thomas Jefferson University Jefferson College of Nursing視察研修報告
「東邦大学大学院看護学研究科 海外演習を含む統合教育科目の開発」に向けた海外演習プログラムの検討
東邦大学大学院看護学研究科 富岡由美、望月由紀子
Ⅰ. はじめに
当研究科は、論文コースに加えて高度実践看護師の育成を目的としたCNS(がん看護学分野・小児看護学分野)、実践助産学・高度実践公衆衛生看護学課程を設置している。2028年度のカリキュラム改正に向け、社会的要請および当研究科のDPに沿った「海外演習を含む統合教育科目」の開発を検討している。本科目の学修のねらいは、①医療政策を含む組織運営や多職種協働を通じたリーダーシップ能力の向上、②グローバルな健康課題への対応力の育成、③複雑な健康問題を抱える対象への高度な看護実践力の獲得、④地域社会における健康格差や脆弱な集団への支援能力の向上、の4点とした。このねらいを達成するため、米国で先進的な教育を行っているJefferson College of Nursing(JCN)およびその関連施設を視察し、当該科目の海外演習プログラムを検討することを目的とした。
これらのねらいに基づき、JCNの大学院研修担当教授と事前に打合せを行った上で、演習施設の候補として視察を行った主な施設を以下に示す。
Ⅱ. 視察施設
1.「母親依存症治療・教育および研究(MATER)」
母親の薬物依存症治療と社会復帰を目的とする施設であり、母子の薬物依存(児の離脱症を含む)への対応や、依存症に関連するメンタルヘルスの支援を学ぶことができる。さらに、家族(母子)関係の再構築や、社会復帰に向けた生活の立て直しを多職種で支援する包括的プログラムについて理解を深める機会となる。
2.Thomas Jefferson University Hospital 産科病棟(写真1)
周産期医療の拠点として妊娠期から分娩・産褥までの一貫したケア体制を有しており、日本では導入が急速に進む無痛分娩の管理や、米国認定看護師助産師(CNM)が主導する分娩管理およびチーム医療を学ぶことができる。大学院生はCNMのシャドーイングを通して、米国における助産の実際を学ぶ機会となる。
3. Chinatown Clinic
周辺に居住する中国系を中心とした移民・低所得層が無料または低額で受診できるクリニックであり、看護・医学部生や看護教員、医師がボランティアで運営している。学生、医師、看護師、通訳、ボランティアが一体となったチーム医療の場で、多職種が連携する包括的ケアの実際を学ぶとともに、無保険・低所得・ホームレスなど社会的弱者への支援や、限られた診療資源の中で生活背景に応じた支援を組み立てる方法を学ぶことができる。
さらに、公衆衛生看護学課程の大学院生にとっては、地域に根ざした生活支援の視点から、医療と生活をつなぐ支援のあり方を考える貴重な機会となる。
Ⅲ. 演習施設の決定
JCN大学院研修担当教授とのミーティングにおいて、以下の施設を演習対象施設とした。
- MATER(母親依存症プログラム)
- Thomas Jefferson University Hospital 産科 病棟・外来
- Thomas Jefferson University Hospital がん 病棟・外来
- Chinatown Clinic
- JCNシミュレーションセンター(新生児蘇生プログラム)
- Nemours Children’s Hospital, Delaware(病棟、NICU)
Ⅳ. 演習プログラム案について(図1)
MATERとChinatown Clinicに共通する特徴は、多職種が協働し、患者中心の包括的ケアを提供している点である。これらの場を総論的な学修として位置づけ、患者中心のチーム医療における看護職の役割や、移民・依存症など社会的弱者に対する倫理的配慮を学ぶ機会とする。一方で、病棟・外来、などの臨床演習を各論的な学びとして位置づけ、大学院生が自らの専門分野に応じた課題を設定し、事前学修を経て課題解決型の演習に取り組む構成とした。総論・各論の演習終了後には、日本人看護師との振り返りを行い、帰国後に成果をレポート・発表で共有することで学修の深化を図る。
-
図1 海外演習プログラム(案)
-
(写真1)分娩室
謝辞
「海外演習を含む統合教育科目の開発」に向けた海外演習プログラムの検討の機会を賜ったことに対し、日本私立看護系大学協会に深く感謝の意を表する。

